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seven wonder!
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 ───数分後。
「……ちょっと、遅くない?」
「奥の方まで、探し回ってんじゃないの」
「だとしても、こんなにはかからないと思う」
「声も、聞こえないね」
 ユミのことだから、すぐにキャアキャア言いながら出てくると思ったのに。
「……ちょっと、見てきてよ」
「やだよ!ムリ過ぎる!」
「ねえ、三人一緒に入ろう。やっぱ、心配だよ」
「ユミが仕組んでるんじゃないかな。入ったところを、ワッ!とか言って脅かしてくるとか」
 それならそれでいいと思った。
 もう15分以上は経っている。あまりにも遅すぎだ。
「開けるよ」
「いいよ」
─────……ユミぃ?」
「どこにいんの──…?」
 三人とも、自然と声が小さくなって、表情も強張ってしまう。
 礼拝堂の中は真っ暗で、窓から入って来る光も、ほんのわずかだけだった。
 しばらく眼が慣れずに、入口のあたりで口々にユミの名を呼んでいたが、
「ユミ!?」
 突然、アイコが悲鳴に近い声をあげる。
「どうしたのよ!急に!」
「あ……あそこ……」
 アイコの指先の延長線上に目を凝らしてみると───
「ユミ!!」
 床に、硬直しながら倒れるユミの姿があった。
 私は慌ててユミのもとへ駆け寄る。
 後にユウキが続き、アイコもふらふらと近寄って来た。
「ユミ!?大丈夫!?」
 ユミは白目をむいて、口の端から白いものを垂らしている。
 手と足はまるで胎児のように、ぎゅっと折り曲げられ強張っていた。
「ユミ!ユミ!」
「何、これ!?どういうこと!?ちょっと、冗談はやめてよ!!」
「うー、もうやだあ……!」
 とうとう、アイコが泣き出した。
「と、とにかく外に運ぼう…?ここにいたらやばいよ……」
 必死の涙声でアイコがそう訴えるので、背の高いユウキが小柄なユミの身体を抱き上げると、そのまま外へと運び出した。
「ユミ……ユミぃ……」
 私が必死に呼びかけても、地面に寝かされたユミはピクリとも反応を示さない。
「私、新田先生呼んでくる」
 アイコが震える膝を叩きながら、そう言い出した。
「ええ!そんなことしたら礼拝堂に入ったことがばれちゃうじゃん!」
「でもこのままにはしておけないよ!救急車、呼んだほうがよくない?」
「どうせあんたは新田先生に取り入りたいだけでしょ」
「ちょっと!こんな時に何言ってんのよ!」
 切羽詰まったこの状況下で、とうとう二人はケンカを始めてしまった。
 新田先生はバツイチの独身貴族で、なかなか見目もいい、30代後半の男性教師だ。
 ユミなどはオッサンと呼んで憚らないが、アイコは彼のことがかなり本気で気にいっていて、そのために新田先生が副顧問をやっている吹奏楽部に入った訳だし、私たちのガールズバンド同好会も新田先生に顧問をしてもらいたいアイコの為だけに結成されたようなものだった。
 今となっては当初の目的以上にバンドの練習が楽しくなってしまって、文化祭へ向けて猛特訓中ではあるのだが。……そんなことより。
「ユミ!?」
 私が半ばやけになってユミの頬をぺちぺちと叩いていたお陰か、やっとユミが反応を示した。
 白眼を剥いていた瞳が動いて、私の顔に焦点が結ばれる。
「リカちゃん……」
「ユミ!」
 けんかをしていたふたりも、さすがにユミへと縋りついた。
「ああーもーよかったよー」
「ねえ!何があったの!何か見たの!?」
「………ううん。何も」
「ええ!?じゃあ何で倒れたりしたの!」
「よくわかんない……貧血じゃないかな……」
 確かに真っ青な顔で、ユミは肩から腕をだらっとさせて俯いている。
「ねえ、ホントに大丈夫?救急車、呼ぶ?」
「え……いいよ。それより早く家に帰りたい」
「そうだよね。ほら、家まで送るから掴まんな」
 ユウキが手を貸してやると、ユミは意外としっかりした足取りで立ち上がった。
 それを見て、私もほっと息をつく。
(これなら大丈夫そうだ……)
 そう、思ったのに。
 この一件以来、ユミは学校へと来なくなってしまったのだった。
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