seven wonder!
「首、吊ってたの?」
「うん……それがね、木の枝にヒモをぶら下げて首を吊ったのは吊ったらしいんだけど、その………身体の腐敗が進んでね、ヒモでくくってあった首のところが……ちぎれて、頭と身体がばらばらになって地面に落ちちゃってたのね」
「………うわ……」
アイコが引きっつた顔で声を漏らした。
「うぅ、いたい……」
首をさするユウキの横で、さすがの門脇先輩も痛ましげに目を細めている。
「服……S女の制服着てた。先輩だったんだね、私たちの。……頭も近くにあったらしいんだけど、私は身体だけしか見なかった」
「………よかったね」
私は思わずそう言った。腐敗の進んだ人の頭部というのは、どれほど恐ろしいものだろう。
「まあ……ね。でも、そのあと毎晩、夢に見たよ。顔を見なかったから、夢の中の彼女はいつも頭が無いまま歩きまわってた」
はぁ、と深いため息をついて、ユミは手で顔を覆う。
「その人、教会で洗礼受けてたクリスチャンだったのに、自殺したもんだからお葬式出してもらえなかったんだって」
「………そっか」
カトリックでは、自殺は重い罪として扱われる。生前、どんなに熱心な信者だったとしても、自殺者となれば葬儀をあげて貰うことも難しい。
「何で、忘れてたんだろ……」
そこでユミはハッと顔をあげた。
「あの、私、彼女に呪われてるとかじゃないんですよね!?」
血相を変えて問いかけてくるユミに、
「それは無いわ」
先輩はきっぱりと言った。
「熱が下がらないのは、呪いのせいとか……?」
「風邪ね、単なる」
「そう……ですか……?」
「そうよ」
先輩は大きく頷くと、
「ただし、気をつけなきゃならないことは、今後もあの礼拝堂や、あそこに似たような場所に行ったとき、同じようなものを見ちゃう可能性があるってことね」
「えぇー!」
ユミは涙眼で不満の声を出した。
私も、ものすごく暗い気持ちになる。これから一生、暗がりを怖がりながら生きていかなきゃいけないのだろうか。そんなの絶対に嫌だ……。
「だから───はい」
先輩はカバンの中をごそごそとやって、ブルーの、よく神社やお寺で売っているような純和風の御守りを取り出した。ただし、「交通安全」といったような文字は縫い付けられていない。無地のものだ。
「これさえあれば、絶対に大丈夫!本物だろうが偽物だろうが、バシバシ霊を吹き飛ばしてくれるから!」
「そ、そんな、通販の決まり文句的な……?」
「うん、安心して。保証する」
「はぁ」
「信じることがね、大事なの」
先輩はおまもりを渡しがてら、ユミの手をぎゅっと握った。
「何かあったら飛んでくるから。すぐ言ってね」
「……わかりました」
どこかほっとしたようなユミの顔を見ながら、私は、
「あの……私にも?」
「そうね」
先輩は頷くと、
「今はいっこしか持ってないから、明日渡すわね。放課後、取りに来てくれる?」
「……はい!」
私も、ほっとした気持ちで頷いた。
先輩は、不思議だ。
こうして目を合わせて話していると、任せておけば大丈夫、という気にさせてくれる。常人の人からは感じられない、エネルギーというか、力がある。
先輩の行動は、自信以上の確信に満ちていた。たったふたつしか歳の違わない人だとは、とても思えない。
私は、先輩のことがもっとよく知りたいと思うようになっていた。
目の前で、ずずずーとジュースを勢いよく吸っている先輩に訊いてみる。
「先輩、今まで旅行した場所で、どこが一番よかったですか?」
「ええ!?うーん、また難しい質問を……。そおねえ……?」
そのあと、私たちは少しだけおしゃべりを楽しんだ後で、それぞれの帰途についた。
もちろん、事件はすっかり解決したものだと信じきって。
「うん……それがね、木の枝にヒモをぶら下げて首を吊ったのは吊ったらしいんだけど、その………身体の腐敗が進んでね、ヒモでくくってあった首のところが……ちぎれて、頭と身体がばらばらになって地面に落ちちゃってたのね」
「………うわ……」
アイコが引きっつた顔で声を漏らした。
「うぅ、いたい……」
首をさするユウキの横で、さすがの門脇先輩も痛ましげに目を細めている。
「服……S女の制服着てた。先輩だったんだね、私たちの。……頭も近くにあったらしいんだけど、私は身体だけしか見なかった」
「………よかったね」
私は思わずそう言った。腐敗の進んだ人の頭部というのは、どれほど恐ろしいものだろう。
「まあ……ね。でも、そのあと毎晩、夢に見たよ。顔を見なかったから、夢の中の彼女はいつも頭が無いまま歩きまわってた」
はぁ、と深いため息をついて、ユミは手で顔を覆う。
「その人、教会で洗礼受けてたクリスチャンだったのに、自殺したもんだからお葬式出してもらえなかったんだって」
「………そっか」
カトリックでは、自殺は重い罪として扱われる。生前、どんなに熱心な信者だったとしても、自殺者となれば葬儀をあげて貰うことも難しい。
「何で、忘れてたんだろ……」
そこでユミはハッと顔をあげた。
「あの、私、彼女に呪われてるとかじゃないんですよね!?」
血相を変えて問いかけてくるユミに、
「それは無いわ」
先輩はきっぱりと言った。
「熱が下がらないのは、呪いのせいとか……?」
「風邪ね、単なる」
「そう……ですか……?」
「そうよ」
先輩は大きく頷くと、
「ただし、気をつけなきゃならないことは、今後もあの礼拝堂や、あそこに似たような場所に行ったとき、同じようなものを見ちゃう可能性があるってことね」
「えぇー!」
ユミは涙眼で不満の声を出した。
私も、ものすごく暗い気持ちになる。これから一生、暗がりを怖がりながら生きていかなきゃいけないのだろうか。そんなの絶対に嫌だ……。
「だから───はい」
先輩はカバンの中をごそごそとやって、ブルーの、よく神社やお寺で売っているような純和風の御守りを取り出した。ただし、「交通安全」といったような文字は縫い付けられていない。無地のものだ。
「これさえあれば、絶対に大丈夫!本物だろうが偽物だろうが、バシバシ霊を吹き飛ばしてくれるから!」
「そ、そんな、通販の決まり文句的な……?」
「うん、安心して。保証する」
「はぁ」
「信じることがね、大事なの」
先輩はおまもりを渡しがてら、ユミの手をぎゅっと握った。
「何かあったら飛んでくるから。すぐ言ってね」
「……わかりました」
どこかほっとしたようなユミの顔を見ながら、私は、
「あの……私にも?」
「そうね」
先輩は頷くと、
「今はいっこしか持ってないから、明日渡すわね。放課後、取りに来てくれる?」
「……はい!」
私も、ほっとした気持ちで頷いた。
先輩は、不思議だ。
こうして目を合わせて話していると、任せておけば大丈夫、という気にさせてくれる。常人の人からは感じられない、エネルギーというか、力がある。
先輩の行動は、自信以上の確信に満ちていた。たったふたつしか歳の違わない人だとは、とても思えない。
私は、先輩のことがもっとよく知りたいと思うようになっていた。
目の前で、ずずずーとジュースを勢いよく吸っている先輩に訊いてみる。
「先輩、今まで旅行した場所で、どこが一番よかったですか?」
「ええ!?うーん、また難しい質問を……。そおねえ……?」
そのあと、私たちは少しだけおしゃべりを楽しんだ後で、それぞれの帰途についた。
もちろん、事件はすっかり解決したものだと信じきって。
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