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「うー…ん」
 門脇先輩は困った顔で頬杖をついている。
「とりあえず、ユミちゃんって子に会ってみないと何とも言えないかなあ」
「ユミんちは近いんで、よかったら案内しますけど……」
 今から行けば、まだあのふたりもいるかもしれない。
「礼拝堂って、あのふるーいやつよね」
「そうです」
「………先にそっち、見てからにしよっか」
 先輩はそう言うと、ガタンと椅子の音を立てて立ち上がった。みつあみにした長い髪がゆらりと揺れる。
「変わった同好会ですよね。その、以前には他にも会員の人がいたんですか」
 礼拝堂へと移動しながら尋ねてみると、
「ううん、ずっとひとり」
 あっさりとそんな答えが返って来た。
「まあ、諸事情あってね。あんな名前つけることになったけど……。全国ってついてればなんでもよかったのよね。食べ歩き同好会でも、飲み歩き同好会でも」
 冗談だろうと思っていたら、
「それだと許可が下りなくって」
 先輩は笑いながら言ったから、どうやら一度は申請したらしい。
 何でも先輩は旅行が好きで、学校を休んでまで全国を旅しているから、そのための言い訳が必要だったのだそうだ。
「郷土史とか何とか、もったいぶった感じで嫌なんだけどね。でも解決した事件……じゃなくて、旅先で調べた事柄をレポートにまとめて提出すると、ちょっとだけ出席日数をおまけしてくれるのよ」
「ええ!ほんとですか!?」
「うん、まあ、学院長とうちの親が知り合いなもんだから、特別にしてもらってるんだけど」
 先輩は、あはは、内緒ね、と笑って、ぴたりと足を止めた。
「ここね」
 例の、礼拝堂のまん前だ。
 立ち入り禁止だからと一応周囲を見回しつつ、ロープを解いて中へと入った。
「………涼しいわね」
 ひんやりとした空気。肌寒いくらいだ。そして、昼間だというのに薄暗い。
 いかにも何かが出そうな雰囲気があるのだが、
「うーん、特に悪い感じはしないなあ」
 先輩はあっけらかんとそう言った。
「幽霊、いないんですか」
 こわごわ聞いてみると、
「いーえ、それなりの気配はあるわよ」
 微妙な答えが返ってくる。
「そ、それなり……?」
 それ以上は恐ろしくて尋ねられないものだから、床にしゃがみこむようにしてじっとしている先輩をしばらく眺めていると、
「駄目だわー」
 先輩は、あきらめ顔で立ち上がった。
「こういう場所はいろんな念が残ってるから、ちょっと複雑で難しいのよねー」
 ぶつぶつと文句を言いながら、周囲を見渡している。
「姿を現してくれるのが一番手っ取り早いのに」
 先輩の大胆な言葉に、私は思わず目を剥いた。
(まさか、降霊術とか始めちゃったりして……)
 そんなものには絶対、立会いたくない。
「あの、私、外で待っててもいいですか?」
 及び腰でそう言うと、先輩はふふ、と笑って私に言った。
「仕方ないから、そのユミちゃんって子のおうち、行ってみようか」
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