seven wonder!
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きっと誰でも、一度は耳にしたことがあるだろう。
音楽室のピアノが勝手に鳴り出したり、保健室や理科室の人体模型がひとりでに歩きまわったり……。
どんな学校にも付き物の、ありふれた怪談話。
昼間の教室で友人と冗談半分に話題にしたそれらを、ふと、放課後の教室でひとりきりになった瞬間に思い出してしまい、後ろを振り返ることが出来ずに慌てて教室を飛び出す。
そう言った体験も、皆少なからず経験しているのではないだろうか。
興味本位で怪談話を口にして、その程度で済んだとしたら、それは幸運だったのだと思う。
私だってその程度で済んだのなら、きっと取るに足らない思い出として、記憶野の隅の方に追いやることが出来たと思う。
しかし私の場合、その程度では済まなかった。
これは、私がまだ私立S女学院・高等部の1年生だった頃、実際に体験した一生忘れることの出来ない出来事である。
「ユミ、今日も休みだって」
ユウキが、アイコに向かって言った。
「おかしいよね。もう一週間だもん」
「やっぱ、あんとき何かに取り憑かれたんじゃ……」
「そんな訳ないじゃん!」
「でも、原因は絶対あの夜に見た"何か"だよ」
「だって、ユミしか見てないんだよ?私はちょっと信じらんないなあ」
「リカちゃんも見たでしょ。ねえ」
アイコが、私の顔を覗き込んでくる。
「うん……。はっきりとではないけど」
「何かがたまたま窓に映ったんだよ。月とかさ」
「大事なのは、ホントに幽霊がいたかどうかじゃないと思う」
アイコは赤い縁の眼鏡を持ち上げながら言った。
「ユミがあそこで幽霊を見たって思いこんでることが重要なんだよ、きっと。それでたぶん、知恵熱みたいなのが引かないんじゃないかな」
「じゃあ、どうすればいーの」
「お祓いするとか……心療内科に行ってみるとかさ」
「えー、なんかちょっと、おおげさじゃない?」
「もう!あんたユミが心配じゃないわけ!?」
「……なに怒ってんの」
ふたりの好き勝手な会話を聞きながら、私の胸の内は罪悪感でいっぱいになっていた。
「私があんなこと言いださなければよかったんだよね」
「………リカちゃんは悪くないと思うよ?」
「そうだよ。ユミがひとりで勝手に入って行ったんだからさ」
でもあの時、あの古い礼拝堂の窓から、白いドレスを着た女の人がこちらを見ていたと私が言いださなければ、ユミはあの礼拝堂にひとりで乗り込んでいくこともなかったし、その場で倒れてしまうこともなかったのだ。
「びっくりしたよね、あん時。人間が口から泡吹くとこ、初めてみたわ」
「まあ、すぐ眼を覚ましたからよかったけどね……」
「……………」
あの夜の、いきさつはこうだった。
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あの夜、4人で組んでいるガールズバンドの練習ですっかり遅くなった私たちは、クラブ棟から正門までの最短距離であるあの古い礼拝堂の横の道を、迷わず選んで歩いていた。
もし一人だったら、大きな銀杏の木に月明かりまで遮られて真っ暗になってしまうあの道を、選んで歩いたりはしなかったと思う。
でも、あの時はいつものメンバーでいた訳だし、怖いなどとは微塵も思わなかった。
例によってユミとユウキが馬鹿なことをいい、アイコがそれに突っ込んでいる横で、ふとあの礼拝堂に視線を向けた私は、窓からこちらを見ている白い服を着た女性を見ても、不思議にすら感じなかったのだ。
「あれ……?」
「ん、どしたー」
「あそこ……礼拝堂に誰かいるみたい」
「それはないでしょ。立ち入り禁止だよ、あそこ」
ユミは私が指さす方向に眼を凝らしながら言う。
「でも、確かに女の人が……」
私がそう言った後で、あれ……もしや……という雰囲気が4人の間に漂った。
「ひょっとして、この世のものじゃないモノですか?」
「もー、そういうの、冗談でもやめてー」
顔を顰めるアイコの隣で、
「ねえ!ちょっと見て来ようよ!」
ユミは瞳を輝かせながらユウキの腕を引っ張っている。
「だから、あそこは立ち入り禁止でしょ!ばれたらヤバいって」
その礼拝堂は、もうずいぶん前に今の新しい礼拝堂が完成して以来、長らく使われていない場所だった。
それでも取り壊しの話が出ないのは、ものすごく古い建物で、歴史的価値があるとかないとか、とにかく手入れだけは時々されながらも、ずっと放置されたままの状態で、もう何年もそこにあるものだったのだ。
当然、中で生徒がたむろしたりしないように、立ち入り禁止となっている。
更に言えば、曰くつきの噂も色々あった。
幼い子供の笑い声が聞こえてくるだとか、死んだ女生徒の霊が出るだとか。
「私、ちょっと行って来るよ」
そんな噂を知ってか知らずか、ユミは腕まくりのポーズをしながら、カバンをユウキに渡している。
「ええ!やめときなよ!」
「そうだよ。もしかしたら痴漢とかかもしんないし。危ないよ」
「いいの!一度でいいから見てみたいんだ、幽霊」
ユミは、言い出すと意外に頑固だ。
「私は絶対に着いて行かないよ」
ユミとは幼馴染でそのことを十分に分かっているユウキは、半ば呆れ顔でユミを見ている。
「私も絶対無理!」
アイコは本気の恐怖を顔に浮かべて、首を横に振っている。
「リカちゃんは?」
「私もちょっと……」
「何だよ、もう!みんな、だらしないなあ!」
ユミはプンプンと怒りながら、礼拝堂に向かって歩き出す。
つられるようにして、私たちも扉の前まで移動した。
立ち入り禁止とはなっていたものの、入口には鍵などはかかっておらず、古いロープが扉のノブに巻きつけてあるだけだ。
ユミはそれを外すと、
「じゃ、いってきまーす♪」
まるで恋人にでも会いに行くように、嬉しそうな顔で礼拝堂の中へ消えて行った。
もし一人だったら、大きな銀杏の木に月明かりまで遮られて真っ暗になってしまうあの道を、選んで歩いたりはしなかったと思う。
でも、あの時はいつものメンバーでいた訳だし、怖いなどとは微塵も思わなかった。
例によってユミとユウキが馬鹿なことをいい、アイコがそれに突っ込んでいる横で、ふとあの礼拝堂に視線を向けた私は、窓からこちらを見ている白い服を着た女性を見ても、不思議にすら感じなかったのだ。
「あれ……?」
「ん、どしたー」
「あそこ……礼拝堂に誰かいるみたい」
「それはないでしょ。立ち入り禁止だよ、あそこ」
ユミは私が指さす方向に眼を凝らしながら言う。
「でも、確かに女の人が……」
私がそう言った後で、あれ……もしや……という雰囲気が4人の間に漂った。
「ひょっとして、この世のものじゃないモノですか?」
「もー、そういうの、冗談でもやめてー」
顔を顰めるアイコの隣で、
「ねえ!ちょっと見て来ようよ!」
ユミは瞳を輝かせながらユウキの腕を引っ張っている。
「だから、あそこは立ち入り禁止でしょ!ばれたらヤバいって」
その礼拝堂は、もうずいぶん前に今の新しい礼拝堂が完成して以来、長らく使われていない場所だった。
それでも取り壊しの話が出ないのは、ものすごく古い建物で、歴史的価値があるとかないとか、とにかく手入れだけは時々されながらも、ずっと放置されたままの状態で、もう何年もそこにあるものだったのだ。
当然、中で生徒がたむろしたりしないように、立ち入り禁止となっている。
更に言えば、曰くつきの噂も色々あった。
幼い子供の笑い声が聞こえてくるだとか、死んだ女生徒の霊が出るだとか。
「私、ちょっと行って来るよ」
そんな噂を知ってか知らずか、ユミは腕まくりのポーズをしながら、カバンをユウキに渡している。
「ええ!やめときなよ!」
「そうだよ。もしかしたら痴漢とかかもしんないし。危ないよ」
「いいの!一度でいいから見てみたいんだ、幽霊」
ユミは、言い出すと意外に頑固だ。
「私は絶対に着いて行かないよ」
ユミとは幼馴染でそのことを十分に分かっているユウキは、半ば呆れ顔でユミを見ている。
「私も絶対無理!」
アイコは本気の恐怖を顔に浮かべて、首を横に振っている。
「リカちゃんは?」
「私もちょっと……」
「何だよ、もう!みんな、だらしないなあ!」
ユミはプンプンと怒りながら、礼拝堂に向かって歩き出す。
つられるようにして、私たちも扉の前まで移動した。
立ち入り禁止とはなっていたものの、入口には鍵などはかかっておらず、古いロープが扉のノブに巻きつけてあるだけだ。
ユミはそれを外すと、
「じゃ、いってきまーす♪」
まるで恋人にでも会いに行くように、嬉しそうな顔で礼拝堂の中へ消えて行った。
───数分後。
「……ちょっと、遅くない?」
「奥の方まで、探し回ってんじゃないの」
「だとしても、こんなにはかからないと思う」
「声も、聞こえないね」
ユミのことだから、すぐにキャアキャア言いながら出てくると思ったのに。
「……ちょっと、見てきてよ」
「やだよ!ムリ過ぎる!」
「ねえ、三人一緒に入ろう。やっぱ、心配だよ」
「ユミが仕組んでるんじゃないかな。入ったところを、ワッ!とか言って脅かしてくるとか」
それならそれでいいと思った。
もう15分以上は経っている。あまりにも遅すぎだ。
「開けるよ」
「いいよ」
「─────……ユミぃ?」
「どこにいんの──…?」
三人とも、自然と声が小さくなって、表情も強張ってしまう。
礼拝堂の中は真っ暗で、窓から入って来る光も、ほんのわずかだけだった。
しばらく眼が慣れずに、入口のあたりで口々にユミの名を呼んでいたが、
「ユミ!?」
突然、アイコが悲鳴に近い声をあげる。
「どうしたのよ!急に!」
「あ……あそこ……」
アイコの指先の延長線上に目を凝らしてみると───。
「ユミ!!」
床に、硬直しながら倒れるユミの姿があった。
私は慌ててユミのもとへ駆け寄る。
後にユウキが続き、アイコもふらふらと近寄って来た。
「ユミ!?大丈夫!?」
ユミは白目をむいて、口の端から白いものを垂らしている。
手と足はまるで胎児のように、ぎゅっと折り曲げられ強張っていた。
「ユミ!ユミ!」
「何、これ!?どういうこと!?ちょっと、冗談はやめてよ!!」
「うー、もうやだあ……!」
とうとう、アイコが泣き出した。
「と、とにかく外に運ぼう…?ここにいたらやばいよ……」
必死の涙声でアイコがそう訴えるので、背の高いユウキが小柄なユミの身体を抱き上げると、そのまま外へと運び出した。
「ユミ……ユミぃ……」
私が必死に呼びかけても、地面に寝かされたユミはピクリとも反応を示さない。
「私、新田先生呼んでくる」
アイコが震える膝を叩きながら、そう言い出した。
「ええ!そんなことしたら礼拝堂に入ったことがばれちゃうじゃん!」
「でもこのままにはしておけないよ!救急車、呼んだほうがよくない?」
「どうせあんたは新田先生に取り入りたいだけでしょ」
「ちょっと!こんな時に何言ってんのよ!」
切羽詰まったこの状況下で、とうとう二人はケンカを始めてしまった。
新田先生はバツイチの独身貴族で、なかなか見目もいい、30代後半の男性教師だ。
ユミなどはオッサンと呼んで憚らないが、アイコは彼のことがかなり本気で気にいっていて、そのために新田先生が副顧問をやっている吹奏楽部に入った訳だし、私たちのガールズバンド同好会も新田先生に顧問をしてもらいたいアイコの為だけに結成されたようなものだった。
今となっては当初の目的以上にバンドの練習が楽しくなってしまって、文化祭へ向けて猛特訓中ではあるのだが。……そんなことより。
「ユミ!?」
私が半ばやけになってユミの頬をぺちぺちと叩いていたお陰か、やっとユミが反応を示した。
白眼を剥いていた瞳が動いて、私の顔に焦点が結ばれる。
「リカちゃん……」
「ユミ!」
けんかをしていたふたりも、さすがにユミへと縋りついた。
「ああーもーよかったよー」
「ねえ!何があったの!何か見たの!?」
「………ううん。何も」
「ええ!?じゃあ何で倒れたりしたの!」
「よくわかんない……貧血じゃないかな……」
確かに真っ青な顔で、ユミは肩から腕をだらっとさせて俯いている。
「ねえ、ホントに大丈夫?救急車、呼ぶ?」
「え……いいよ。それより早く家に帰りたい」
「そうだよね。ほら、家まで送るから掴まんな」
ユウキが手を貸してやると、ユミは意外としっかりした足取りで立ち上がった。
それを見て、私もほっと息をつく。
(これなら大丈夫そうだ……)
そう、思ったのに。
この一件以来、ユミは学校へと来なくなってしまったのだった。
「……ちょっと、遅くない?」
「奥の方まで、探し回ってんじゃないの」
「だとしても、こんなにはかからないと思う」
「声も、聞こえないね」
ユミのことだから、すぐにキャアキャア言いながら出てくると思ったのに。
「……ちょっと、見てきてよ」
「やだよ!ムリ過ぎる!」
「ねえ、三人一緒に入ろう。やっぱ、心配だよ」
「ユミが仕組んでるんじゃないかな。入ったところを、ワッ!とか言って脅かしてくるとか」
それならそれでいいと思った。
もう15分以上は経っている。あまりにも遅すぎだ。
「開けるよ」
「いいよ」
「─────……ユミぃ?」
「どこにいんの──…?」
三人とも、自然と声が小さくなって、表情も強張ってしまう。
礼拝堂の中は真っ暗で、窓から入って来る光も、ほんのわずかだけだった。
しばらく眼が慣れずに、入口のあたりで口々にユミの名を呼んでいたが、
「ユミ!?」
突然、アイコが悲鳴に近い声をあげる。
「どうしたのよ!急に!」
「あ……あそこ……」
アイコの指先の延長線上に目を凝らしてみると───。
「ユミ!!」
床に、硬直しながら倒れるユミの姿があった。
私は慌ててユミのもとへ駆け寄る。
後にユウキが続き、アイコもふらふらと近寄って来た。
「ユミ!?大丈夫!?」
ユミは白目をむいて、口の端から白いものを垂らしている。
手と足はまるで胎児のように、ぎゅっと折り曲げられ強張っていた。
「ユミ!ユミ!」
「何、これ!?どういうこと!?ちょっと、冗談はやめてよ!!」
「うー、もうやだあ……!」
とうとう、アイコが泣き出した。
「と、とにかく外に運ぼう…?ここにいたらやばいよ……」
必死の涙声でアイコがそう訴えるので、背の高いユウキが小柄なユミの身体を抱き上げると、そのまま外へと運び出した。
「ユミ……ユミぃ……」
私が必死に呼びかけても、地面に寝かされたユミはピクリとも反応を示さない。
「私、新田先生呼んでくる」
アイコが震える膝を叩きながら、そう言い出した。
「ええ!そんなことしたら礼拝堂に入ったことがばれちゃうじゃん!」
「でもこのままにはしておけないよ!救急車、呼んだほうがよくない?」
「どうせあんたは新田先生に取り入りたいだけでしょ」
「ちょっと!こんな時に何言ってんのよ!」
切羽詰まったこの状況下で、とうとう二人はケンカを始めてしまった。
新田先生はバツイチの独身貴族で、なかなか見目もいい、30代後半の男性教師だ。
ユミなどはオッサンと呼んで憚らないが、アイコは彼のことがかなり本気で気にいっていて、そのために新田先生が副顧問をやっている吹奏楽部に入った訳だし、私たちのガールズバンド同好会も新田先生に顧問をしてもらいたいアイコの為だけに結成されたようなものだった。
今となっては当初の目的以上にバンドの練習が楽しくなってしまって、文化祭へ向けて猛特訓中ではあるのだが。……そんなことより。
「ユミ!?」
私が半ばやけになってユミの頬をぺちぺちと叩いていたお陰か、やっとユミが反応を示した。
白眼を剥いていた瞳が動いて、私の顔に焦点が結ばれる。
「リカちゃん……」
「ユミ!」
けんかをしていたふたりも、さすがにユミへと縋りついた。
「ああーもーよかったよー」
「ねえ!何があったの!何か見たの!?」
「………ううん。何も」
「ええ!?じゃあ何で倒れたりしたの!」
「よくわかんない……貧血じゃないかな……」
確かに真っ青な顔で、ユミは肩から腕をだらっとさせて俯いている。
「ねえ、ホントに大丈夫?救急車、呼ぶ?」
「え……いいよ。それより早く家に帰りたい」
「そうだよね。ほら、家まで送るから掴まんな」
ユウキが手を貸してやると、ユミは意外としっかりした足取りで立ち上がった。
それを見て、私もほっと息をつく。
(これなら大丈夫そうだ……)
そう、思ったのに。
この一件以来、ユミは学校へと来なくなってしまったのだった。
放課後、アイコが妙なことを言い出した。
「ねえ、知ってる?"全国郷土史・民俗学研究同好会"って」
「……知らない。何、その長い名前。そんなのあったっけ?」
「私もさあ、興味なかったからすっかり忘れてたんだけど……。前に吹奏楽の先輩から聞いたことあんだよね。そこの会の三年生で、ものすごく霊感の強い人がいるって」
「えええ、何か嘘くさ~」
「まあ、私もあんまり信じてはないんだけどさ」
リカちゃん、とアイコは私に向かって言った。
「あの礼拝堂で見た……白いドレスの女の人?その先輩に話してみたらどうかな」
「……また始まった」
アイコの言葉に、ユウキが笑みを浮かべて首を横に振っている。
「霊感なんて、単なる噂に決まってんじゃん、そんなの」
「でも、その先輩に纏わる逸話がいっぱいあるんだよー」
アイコは口を尖らせる。
「結局あの時の幽霊……ユミ以外に見たのはリカちゃんだけだったし」
「大体さあ、ユミは何も見てないって言ってたじゃん」
「あれは絶対何か見てるよ!じゃなきゃ気を失ったりするわけないじゃん」
確かに、そうなのだ。ユミはきっと、自分と同じモノを見て倒れたのだ。
それは、私にとってもものすごく怖いことだった。
(次は、私が祟られる番かもしれない……)
「私、話してみようかな」
「え!やめなよ!大体話すってことは、うちらが礼拝堂に入ったってばれちゃうじゃん!」
「そうだけど……」
「もう!昨日からユウキはそればっかり!本気でユミのこと心配してる!?出来ることしてあげたいって思わないの!?」
「……思うけどさあ」
「私、今日ユミんち行ってお母さんに全部話すつもりだから」
「ええ!」
アイコの宣言に、ユウキは反対!反対!と抗議する。
「リカちゃんはそのなんとか同好会ってとこに行ってみてくれないかな」
「うん、わかった」
「ねえ!ちょっと待ってよ!」
「何?文句ある?」
結局、散々口論した結果、ユウキもアイコと一緒にユミの家に行くことになったから、私はふたりと別れて、ひとりクラブ棟へと向かったのだった。
「ねえ、知ってる?"全国郷土史・民俗学研究同好会"って」
「……知らない。何、その長い名前。そんなのあったっけ?」
「私もさあ、興味なかったからすっかり忘れてたんだけど……。前に吹奏楽の先輩から聞いたことあんだよね。そこの会の三年生で、ものすごく霊感の強い人がいるって」
「えええ、何か嘘くさ~」
「まあ、私もあんまり信じてはないんだけどさ」
リカちゃん、とアイコは私に向かって言った。
「あの礼拝堂で見た……白いドレスの女の人?その先輩に話してみたらどうかな」
「……また始まった」
アイコの言葉に、ユウキが笑みを浮かべて首を横に振っている。
「霊感なんて、単なる噂に決まってんじゃん、そんなの」
「でも、その先輩に纏わる逸話がいっぱいあるんだよー」
アイコは口を尖らせる。
「結局あの時の幽霊……ユミ以外に見たのはリカちゃんだけだったし」
「大体さあ、ユミは何も見てないって言ってたじゃん」
「あれは絶対何か見てるよ!じゃなきゃ気を失ったりするわけないじゃん」
確かに、そうなのだ。ユミはきっと、自分と同じモノを見て倒れたのだ。
それは、私にとってもものすごく怖いことだった。
(次は、私が祟られる番かもしれない……)
「私、話してみようかな」
「え!やめなよ!大体話すってことは、うちらが礼拝堂に入ったってばれちゃうじゃん!」
「そうだけど……」
「もう!昨日からユウキはそればっかり!本気でユミのこと心配してる!?出来ることしてあげたいって思わないの!?」
「……思うけどさあ」
「私、今日ユミんち行ってお母さんに全部話すつもりだから」
「ええ!」
アイコの宣言に、ユウキは反対!反対!と抗議する。
「リカちゃんはそのなんとか同好会ってとこに行ってみてくれないかな」
「うん、わかった」
「ねえ!ちょっと待ってよ!」
「何?文句ある?」
結局、散々口論した結果、ユウキもアイコと一緒にユミの家に行くことになったから、私はふたりと別れて、ひとりクラブ棟へと向かったのだった。
クラブ棟に地下があるのは知っていたけど、物置になっているような部屋ばかりで、まさかそこを部室として使っている人たちがいるだなんて、知らなかった。
ちょっと薄暗い廊下を恐々進んでいくと、一番奥にその部室は見つかった。"全国郷土史・民俗学研究同好会"というかわいい手書きの文字の看板が掲げられている。
私はその扉をそっとノックした。
───返事はない。
「失礼します……」
声をかけて、扉をあける。
すると────。
部屋は半地下のようになっているらしく、高い天井のすぐ下の壁に、明かり取りの天窓がついていた。
そこから光が差し込んで、まるでスポットライトのように、部屋の中央にひとつだけ置かれた机にあたっている。
そしてその机には、制服を着たおさげ髪の女生徒が神々しく─────いびきをかきながら、突っ伏していた。
「あの……」
「─────んぁッ!!!」
私の声に驚いてガバッと顔をあげたその女生徒の口元には、涎の跡がくっきりとついている。
それでも、
(きれい)
とっても、美人だった。こんな人、学校にいただろうか?
利発そうな、はっきりとした顔立ち。たぶん、男子よりも女子からの人気がありそうなタイプ。
うちの学校では、絶対に有名になりそうな人なのに。
「あの、門脇先輩っていらっしゃいますか」
私がそういうと、その女生徒は口元を袖でごしごしと擦りながら、
「残念だけど、当同好会は門脇綾子ただひとりなのよ」
ため息とともに言った。
「じゃあ、あなたが……」
「そ。私がその門脇先輩。……まさか、入会希望者じゃあないわよねえ」
「いえ……あの、実は相談があって……」
"相談"という言葉を聞いたとたん、彼女はウッと顔を歪めた。
「相談って、どんな?」
「その………」
もしかしたら信じて貰えないかもしれない、と思って口籠っていると、
「霊でも見ちゃった?」
彼女のほうから、話題を振ってくれた。
「そう、そうなんです!実は一週間前、古いほうの礼拝堂で女の人を見てしまって!」
「やっぱり」
彼女はおさげの頭をぽりぽりと指で掻く。
「悪いけど、そういう相談は断ることにしてるのよ。だって、キリがないんだもん」
「あの、でも、友達がその幽霊を見たせいで寝込んでしまっていて」
「そうなの……?」
「もう一週間も学校を休んでいて」
しかもそれは、私が変なことを言い出してしまったせいだったりするものだから、困り果てていてほんと、藁にも縋る想いなのだということを、必死に顔でアピールしていると、
「いいわ」
彼女は決して恩着せがましくない、さばさばとした口調で言った。
「聞くわよ。こっち来て座って」
入口の所に立ったままだった私は、その言葉に心底ホッとしながら、
「失礼します」
白い机をひとつ挟んで、彼女の正面へと腰掛けた。
ちょっと薄暗い廊下を恐々進んでいくと、一番奥にその部室は見つかった。"全国郷土史・民俗学研究同好会"というかわいい手書きの文字の看板が掲げられている。
私はその扉をそっとノックした。
───返事はない。
「失礼します……」
声をかけて、扉をあける。
すると────。
部屋は半地下のようになっているらしく、高い天井のすぐ下の壁に、明かり取りの天窓がついていた。
そこから光が差し込んで、まるでスポットライトのように、部屋の中央にひとつだけ置かれた机にあたっている。
そしてその机には、制服を着たおさげ髪の女生徒が神々しく─────いびきをかきながら、突っ伏していた。
「あの……」
「─────んぁッ!!!」
私の声に驚いてガバッと顔をあげたその女生徒の口元には、涎の跡がくっきりとついている。
それでも、
(きれい)
とっても、美人だった。こんな人、学校にいただろうか?
利発そうな、はっきりとした顔立ち。たぶん、男子よりも女子からの人気がありそうなタイプ。
うちの学校では、絶対に有名になりそうな人なのに。
「あの、門脇先輩っていらっしゃいますか」
私がそういうと、その女生徒は口元を袖でごしごしと擦りながら、
「残念だけど、当同好会は門脇綾子ただひとりなのよ」
ため息とともに言った。
「じゃあ、あなたが……」
「そ。私がその門脇先輩。……まさか、入会希望者じゃあないわよねえ」
「いえ……あの、実は相談があって……」
"相談"という言葉を聞いたとたん、彼女はウッと顔を歪めた。
「相談って、どんな?」
「その………」
もしかしたら信じて貰えないかもしれない、と思って口籠っていると、
「霊でも見ちゃった?」
彼女のほうから、話題を振ってくれた。
「そう、そうなんです!実は一週間前、古いほうの礼拝堂で女の人を見てしまって!」
「やっぱり」
彼女はおさげの頭をぽりぽりと指で掻く。
「悪いけど、そういう相談は断ることにしてるのよ。だって、キリがないんだもん」
「あの、でも、友達がその幽霊を見たせいで寝込んでしまっていて」
「そうなの……?」
「もう一週間も学校を休んでいて」
しかもそれは、私が変なことを言い出してしまったせいだったりするものだから、困り果てていてほんと、藁にも縋る想いなのだということを、必死に顔でアピールしていると、
「いいわ」
彼女は決して恩着せがましくない、さばさばとした口調で言った。
「聞くわよ。こっち来て座って」
入口の所に立ったままだった私は、その言葉に心底ホッとしながら、
「失礼します」
白い机をひとつ挟んで、彼女の正面へと腰掛けた。